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​紗幕越しの川柳

河野潤々

2024年10月22日

#Scene 9

紗幕越しの川柳フォト
君を抱く 死んだ記憶の残る手で   

一家 汀

 


文学フリマ札幌でいただいた『群蝶ミニ川柳選書』の連作から引く。


背中に回した手に

抱きしめる力を宿しているのだろうか。


ひとに相談することもできずに

耐えがたい心の痛みや不安を体の痛みに置きかえようと

幾度となく繰り返した自傷行為の痕が残る手は

今、「君」という存在に、真の安らぎを求めているのだろう。


行く先に未来はあるのだろうか。

いや、たとえこの先に死が待ちかまえていようとも

その先には、ふたりの安らぎと平和が永遠に続くと信じ

背中に回した渾身の力で

「君」を強く抱き締められずにはいられない。


かつてひとを信用できなかった「私」が

「君」に心を開き、愛し、離したくないと思う。

そんな思いが滲み出てくる「死んだ記憶の残る手」が

このうえなく素敵。



「暁に近いところ」 


惹かれ合う 傷の位置さえ似てる人

傷ひとつつけて私のものとする

暁に近いところに来た二人

君を抱く 死んだ記憶の残る手で

バルスと言う時は一緒にいてほしい

断ってほしい寂しい「会いたいよ」

刃先まだ貴方へ僕へ揺れている

私が濁れば澄んでいくあなた

どこでもドアあったら貴方から逃げる

たまごっち そっと握って愛終わる


一家 汀


(2024年9月22日配布 『群蝶ミニ川柳選書(1)』)

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