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紗幕越しの川柳
河野潤々
2024年9月22日
#Scene 7
裸の王様の服を展示中
ひとり静
何も身に着けていないマネキンが
すまし顔でショーウインドウにたたずんでいる。
「織りが細かくて肌ざわりのよさそうな洋服ですね」
「天鵞絨色の発色がきれい」などと話している横を
「ママ、あのひとなんで裸なの?」と
子どもが通り過ぎる光景を想像し
ニヤニヤしてしまう。
はたまた、通りがかりのベランダに
洗いたてのちっちゃな衣服が風にゆれているのを見て
王様がおむつ替えを嫌がって逃げ回る様子を
つい想像してしまう
キャッキャと騒ぐ声まで聞こえてくるようだ。
掲句は20年かそれ以上前に詠まれた作品であるが
数多いる裸の王様たちの日々発信するタイムライン等の
情報があふれかえる様子を思い浮かべ
SNSと上手につきあう方法を模索しながら
現代社会との折り合いをうまくつけて
裸の王様にならないようにしなきゃな、などと
時間を超えて作品の中に紛れ込み
勝手に作品と同化したつもりになっている自分がいた。
このほかにもいくつか。
ブランコの柔らかすぎるたたみ方
面取りを忘れた自我の煮崩れる
体重が魔女になるのを邪魔してる
しゃぼん玉屋根まで飛んで見えたもの
秋桜の野原が分母だといいね
(ひとり静 句集「海の鳥・空の魚」 私家版 2008年)
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