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​紗幕越しの川柳

河野潤々

2025年10月8日

#Scene 30

紗幕越しの川柳フォト
   は たんは 綻(ターン) じゃなくてお仕舞いの  舞

 小野寺里穂


前回と同じ作品を引く。前回とは異なる鑑賞で。

 

この句をはじめて目にしたときに

かつて何度となく観ていた映像作品を思い出した。

 

ウィリアム・フォーサイスが振付する

コンテンポラリー作品に

踊りはじめのタイミングを逸しながらも

途中から踊り出し、難解な動きを軽やかに

こなす練習着姿のバレエダンサー

シルヴィ・ギエムのことをである。

 

冒頭の三字あけには

踊りにうまく入っていけない焦りや葛藤が、

その後の複数の一字あけには

置かれた状況を理解し感情を

コントロールしようとする姿が、

そして最後の二字あけには

迷いを払拭し覚悟を決める様子が

込められているように思う。

そして最後に置かれた「舞」に

雑念を振り払いただ踊ることだけに集中する

姿が浮かび上がる。

 

表現したいことを具象に託したり

直接言葉に表すのではなく

余白(文字あけの箇所)にきゅっと詰め込んで

そこへ導くためのツールとして

言葉を活用しているようでもある。

 

更には、本来は韻律の範疇に納めるべき

いびつな内在律(心情の起伏)を

そのままに表記するための根拠として

「はたん(破綻)は舞」の断定が効いている。

 

うーん、現代川柳っておもしろい。

 

 

掲句の力をお借りし

自分らしく「お仕舞い」を舞うことができました。

すてきな出合いと記憶

現在の心境が絡まり合いながら

この作品が長らく記憶に残るものと

確信しています。

 

『紗幕越しの川柳』はお仕舞いにします。

ありがとうございました。

 

 

(小野寺里穂 句集『いきしにのまつきょうかいで』2023年11月)

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