top of page
紗幕越しの川柳
河野潤々
2024年12月22日
#Scene 13

来てもいい来なくてもいいバスを待つ
宇佐美愼一
(回想)
「30年後の今日この時間に、ここで会おう」
「少し早く来すぎたか」
「何を期待しているんだろう」
「そもそもあんな約束を覚えているんだろうか」
「覚えていたとしても、来るはずなんかないよな」
人生の節目と思われるときには
必ずといっていいほど
恩師の言葉が脳裏を横切る。
【五分の自信、四分の不安、一分の無関心】
「あれ以来、連絡を取り合うことはなかった」
「そもそもぼくのことなんか、
思い出すことなどあったのだろうか」
「どこでどんな暮らしをしているのだろう」
「会ってみたい」
「今さら会って何を話すというのか」
「いや、来ないほうがいいのかもしれない」
「しかし……」
時計の針が遅々として進まず
ひとり思い出に耽っていると
遠く陽炎のなかを一台のバスが姿を現した。
おとこの踵が少しだけ、浮いた。
(「水脈」第68号 川柳グループ水脈 2024年12月)



