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​紗幕越しの川柳

河野潤々

2024年11月22日

#Scene 11

紗幕越しの川柳フォト
かりそめの足を崩している人魚   

伊藤聖子

 


K-BALLET TOKYO 公演『マーメイド』には、

地上に上がったマーメイドが

自由に操れない足に、躓き、転び

とまどいながらも、きたるべき未来に思いを馳せ

喜びにあふれる様子が、丁寧に描かれている。

 

このシーンに見入っていると

突如、掲句が脳裏に浮かんできて

舞台上のマーメイドのしぐさや感情の移ろいに

シンクロしているではないか。

この句をモチーフに振付されたのかと思うほど。

 

知らぬ間に掲句が私の体内に棲みついてくれていたこと、

そしてひょっこりと顔を出してくれたことが、

ただただうれしかった。

 

この『マーメイド』が映画となって、この12月に帰ってくる。

ときに行動をともにしてくれる川柳作品が

胸の内に棲む喜びを、また味わってこようと思う。

 

さて、掲句。

「足を崩している」に

恋を成就させんとばかりに駆け引きしている様子を

思い描いてみたのだが、真意はいかに。

 

掲句が納められた句集のタイトルに今も惹かれている。

タイトル買い万歳!



「生きてるか?」明日も揺さぶられるマリモ

処方箋わたしにはもう春しかない

最愛の人に一夜の雪が降る

炎天に膨らむペテン師の木陰

トイレットペーパーだけに写経する

 

(伊藤聖子 句集『半人前のマリモ』 新葉館出版 2023年6月)

 

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