top of page

せんりゅう、ごちそうさま

笹田かなえ

2024年11月1日

月刊「時の川柳」五月号 No.808

薄い本

月刊「時の川柳」五月号 No.808


銃口を向ける プライド赦されよ  

矢沢和女


高校を卒業して何年か経ったころ、高校時代の家庭科の先生のお宅を訪ねたことがあった。先生はもう定年退職をなさっていて、初めての訪問にも関わらず、とても温かく迎えてくださった。

私は先生の優しさに、その頃にっちもさっちもいかなくなっていた、恋の話をしたのだった。先生は「私もどろどろの恋をしたことがあったけど、最後はプライドよ」とおっしゃった。

その時は納得しかねたが、今は分かる。カルメンにも清姫にもなれなかったけれど、自分を保つことの辛さ、ぎりぎりのところで踏みとどまることの痛みを、この句によって思い出している。もう、50年近くも昔のことだが…

 

月刊「時の川柳」五月号 No.808を読ませていただきました。

「時の川柳社」主幹の矢沢和女さんとお会いしたのは、2017年4月でした。

川柳展望の全国大会に参加した時です。


くんじろうさんや石橋芳山さんと一緒になり、ちょうどくんじろうさんの絵手紙展が神戸で開催されているというので、吟行をしましょうということになり、八上桐子さんと矢沢和女さんにお声をかけていただき、ご参加いただき初めてお会いしたのでした。それ以来、和女さんと大会などでお会いするたびにあたたかくお声をかけていただいております。


創始者の三條東洋樹氏の志をしっかりと受け継ぎ、大変なご苦労もおありかと思いますが、いつも明るく溌剌とした笑顔で接してくださり、とても刺激を受けているのです。

五月号から心惹かれた御作品を書かせていただきました。


 

歴史るいるい廃線の月見草  

堀口雅乃


立ち位置を変えると近くなる正義  

中村孝子


生を問い死を問い桜満開に  

安原栄子


独り住み気にせぬレジの待ち時間  

嶺脇ルイ


小でまりが弾けてならすピアニシモ  

馬杉とし子


浮かび出るあの遮断機の擦過音  

古家明子


牛の目が人に優しさ問うている  

寺尾麦人


冬天を画布につる薔薇枝伸ばす  

壷坂 園


残念が泉のように湧いてくる  

小西みゆき


明日もまた生きているのか鏡見る  

上原勇吉


がんばろう つい深爪になっている  

小山紀乃


高卒の親父の作る宇宙船  

佐々木 堯


格差社会でした マッチ売りの少女  

岡田 篤


深い息切り取り線でもがいている  

佐藤寿美子


スクワット二、三回してトイレ出る  

𠮷岡裕子


飯を盛る器よ我という器  

梶原サナエ


永遠を包んで育つまだ八十路  

成定竹乃


タイマーをセット大人が出来あがる  

春名恵子


808号ということは、単純に計算して67年以上発行していることになります。毎月、定期的に発行することは、本当にものすごいことだと心から尊敬の念を抱かずにはいられません。「時の川柳」は、噛むほどにじんわり麦の味が広がる、ハード系のパンの味がしました。

ごちそうさまでした。

川柳アンジェリカロゴ
bottom of page