せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2024年9月1日
川柳展望創刊号 後編
先月に引き続き、偉大なる先輩の方々の熱気に圧倒されながら、書かせていただいております。
お会いしたことのある方のお姿やお声を思いだしては、手を休めながらの楽しい時間でした。
二ツ折れの葱よりむごい挫折かな
石川 勝(番傘人間座)
朝焼けの雲をじゃぶじゃぶ洗濯する
伊東酔夢(せんば)
沈丁華 友 寒い日の土になる
田中好啓(ふあうすと)
いつも誰かに見られている斜塔
松岡十四彦(番傘)
枯草へ毛虫還って春なのか
木下水保
まなこのうらにあぶらかたまる岬ゆく
園 美雪
この坂にいま人あらば恋に落ちむ
岡田俊介(ふあうすと)
いつも……病んで一人称のさむい砂漠
渡部可奈子(ふあうすと)
僕のてのひらで ひとのてのひらかな
渡辺和尾(柳都)
恨み言かわす小鳥の白い羽根
河野君子(川柳塔)
一月の二十日は埃たつお客
佐々木イネ
瞳が闇に慣れると鈴はもう聴こえぬ
井上富子(番傘)
灯を消せばオーデコロンが浮いてくる
保木 寿(番傘)
山鳩も乱心のごと羽ばたき谷へ
羽淵礼子
死者百句 にんげん百句 のど仏
定金冬二(ふあうすと)
荒縄で束ねて花を銭にする
小浜牧人(川柳塔)
鉄塔の尖きを視ていただけなのさ
那津晋介(川柳社会)
花かげに埋める 瑞々しい兇器
中村土龍
砂の沈黙を足音が消してゆく
正本水客(川柳塔)
預金高ゼロの男が会いにくる
中島和子(番傘)
傀儡師をとらえつづける春の咳
中尾藻介
切先(ママ)をおそれず丸く浮いた雲
小野克枝(川柳塔)
椿散る呼吸は止まず天を搏ち
藤井比呂夢(柳都)
野良に出てもう菜の花は咲いたのか
八坂俊生(ふあうすと)
野ぼとけの台座の下の蟻地獄
花東千久良
落日を呑みこみ山は死んだのか
森 賛子
たしかなる力の下で鳥になる
松本佐知子(川柳研究)
罪の窓があかぬーーーーーー女
林 筑前(せんば)
意地悪な裏書ならばしてあげる
松山温子(平安)
処刑台に鹿せんべいが置いてある
墨 作二郎
頭を隠す大きな穴を掘りました
小出智子(川柳塔)
椅子ひとつ踏み台用においておく
高橋夕花(川柳塔)
天の声 地の声 鳩は欺かず
大川柊風
時空は長く広い蓑虫の沈黙
山本三五郎
春の帽子で掬えるほどの男たち
森中惠美子(番傘人間座)
これほど馬鹿な山の起伏か
奥田都指王
あだし野の石のひとつでいい いのち
三井酔夢(川柳塔)
墓地が好き 花なき里の花見茣蓙
福原千絵(ふあうすと)
蟻踏んで象は聖書を読みつづける
水粉千翁(川柳塔)
さくらかな大方の矢は胸に受け
時実新子
裏表紙裏には
川柳展望 創刊号 600円
――時実新子個人誌――
昭和50年5月1日発行
編集兼発行者 時実新子
印刷所 細谷印刷所
発行所 川柳展望社
そして、その頃の時実新子さんの住所と電話番号が記してありました。
今の川柳展望も印刷所は変わらず、(有)細谷印刷所です。
来春、4月20日に「川柳展望50周年全国大会」が開催されます。
50年と言う月日の重みをしみじみと感じております。
現在の発行人である天根夢草先生は、私の川柳の師でもあり、初心者の頃に往復書簡で川柳の指導をしていただき、本当にお世話になりました。
「川柳展望」は、私にとって川柳の原点でもあります。今回、やっと読むことができた「川柳展望創刊号」は、これからきっと何度も手にすることになるでしょう。
それは生きていくうえで欠かせない水のような、そんな存在だと再認識をしたのでした。