せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2026年2月1日
魚 No.47

2025年12月8日、青森県東方沖を震源地として発生した震度6強の地震には、本当に驚きました。
私の住む八戸は地震の多い町で、多少のことでは驚かないのですが、この地震は家が壊れるのを覚悟したくらいの衝撃でした。幸い、我が家はライフラインも無事でコップひとつ割れることなく済んでホッとしたのですが…
本棚から本や資料が崩れ落ちたのがすさまじかったです。
翌日から後片付けをしたのですが、その昔しまい込んでいた川柳誌がゾロゾロ出てきたのは、嬉しい怪我の功名でした。
その中の一冊「魚 No.47(1990年8月5日発行)」をご紹介いたします。
「魚」は、北海道出身の飯尾麻佐子さんが昭和53年に創刊した川柳誌です。女性川柳の発展と屹立を切望して女性による川柳誌として立ち上げたという事です。
当時は男性がリーダーとして君臨していた川柳界です。私が川柳を書くようになったのは平成でしたが、その頃でも男尊女卑の思想がはびこっていて、うんざりしたものでした。なので「魚」を創刊された時の飯尾さんは、何かと理不尽な思いをされたであろうことは想像に難くありません。
そして今回ご紹介する「魚」の47号ですが季刊なので、創刊から10年以上が経ち、すでにその立ち位置を確立されていたのではないでしょうか。
石田柊馬さんの「川柳性についてのメモ」や、須田尚実さんの「たかが川柳されど川柳」という骨太の川柳論なども掲載されてい て、ずっしりと読み応えがありました。
会員作品の中から、いいなと思ったものを紹介させていただきます。
浮を押し返しぐるりと海である
松村育子
藁人形 火蛾道連れに燃えている
沢出こうさく
花暦めくる哀しい目と出会い
土屋久昭
ごてん毬試行錯誤の水たまり
秋本トヨ子
死ねと言われたような気がする 落日
城村美都枝
青空の下も平気で嘘をつく
宗村政己
さむいさむいとガラスを拭いている
嘉瀬信柳詩
プライドがくすぶっているおぼろ月
松原ゆきえ
被写体の汗ばむモノトーンの殺気
上河辺みち
東奔西走洗いざらしの顔をして
加瀬八重子
言いすぎた後はなんとかなるだろう
長尾美和
しりとりは続き行き止まりの川がある
一戸涼子
素うどんの残り 蜃気楼とは言えぬ
手島晩秋
何か持ちつつ鏡の中歩く
酒井麗水
家中の空気を病妻がみんな吸う
福原快作
花吹雪 ゆっくり脳死の はなしなど
岡崎質子
膵臓のかげに居坐る深海魚
工藤満知
襤褸つんだ驢馬を曳いて 月の坂
原 多佳子
つなぎ目が弛みサーカス小屋に居る
小林こうこ
ふねがしずむはっきりいえずにしずむ
佐々木久枝
女は寡黙で深い海を抱く
橘川佳枝子
不義の子とゐるかのごとしアマリリス
荻原久美子
北窓をひらく沙汰のあるごとく
飯尾麻佐子
私はジェンダー論者ではないのですが、女性であることによる女性川柳人の不遇の時代は確かにあったと思っています。
そういう時代に、自分の川柳を血の滲むような思いで書いてこられた先輩たちを思うと、今の自分の生ぬるさがとても恥ずかしいです。
「魚」の川柳によって、これからの自分の川柳をどうすればいいのを考えさせられています。
そのような「魚」の川柳は、時間をかけて熟成したすっきり辛口の白ワインの味がしました。
せんりゅう、ごちそうさまでした。



