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せんりゅう、ごちそうさま

笹田かなえ

2025年10月1日

川柳文学コロキュウム 100号 (終刊号)

薄い本

大阪の赤松ますみさんが主宰として発行してこられた「川柳文学コロキュウム」は、一昨年の2023年4月に終刊しました。かつてあった、「川柳文学社」という結社が主幹の逝去に伴い、休刊中だったのをますみさんが引継ぎを懇願されて、迷いながらも引き受けることになり「川柳文学コロキュウム」としてスタートしました。


創刊時から関わってきた私は、とても寂しいものがありましたが、20年間ますみさんがひとりで編集と発行を担ってきたその過酷な仕事ぶりを思うと、「お疲れ様、ありがとう」と言うしかありませんでした。


2003年に発行されてから20年、沢山の事を思い出しながら、100号に掲載された、会員と自由吟投句欄から、いいなと思った作品を勝手に書かせていただきます。



カレイドスコープ(会員自由吟自選)


突破口から太陽が洩れてくる  

斉尾くにこ


キューピーの頃は何でも許された  

熱田熊四郎


冬の雨記憶の森に紛れ込む  

三上博史


りんご転がる痛かったでしょうのカタチ  

笹田かなえ


手を振れば味方みたいな顔をして  

岡谷 樹


あっけらんと空を見ている瓶の口  

星井ごろう


不可思議な調和 神の色えらび  

宮井いずみ


桃色を少し残したまま下りる  

西 恵美子


ぼたん雪の本気度は百パーセント  

新保芳明


その風はどちらをむいて吹いてるの  

木戸利枝


善人のつもりか冬の月明り  

一橋悠実


雨の日は朝から恋の量り売り  

平尾正人


動物園象もキリンも買えません  

山内美代子


ふる里の我が家へ続くいわし雲  

石澤はる子


IPS細胞ヤンバルクイナ救えるね  

宮城可香春


あるがままもいいと思うが意地もある  

籠島恵子


荷ほどきのゴールは来世なのだろう  

桂 晶月


私は生きております正誤表  

望月 弘


芽吹け芽吹けチャンスがそこに立っている  

みつ木もも花


夕晴れの箕面の尾根の秋仕舞  

壇 信子


新聞を変える偏らないように  

毛利由美


空と海本当のことを知っている  

渡辺遊石


冬の虹Z世代とバンクシー  

垣見はるみ


意地悪をされたらしょげる秋田犬  

桐原 肇


針に糸どちらでもいい糸に針  

こはらとしこ


真っすぐに伸びた氷柱とにらめっこ 

北山まみどり


初恋のあの方も今杖ついて  

伊藤玲峰


一発かましに投票所へ走る  

中前棋人


言い訳やめたってキムチ鍋だって  

山本洵一


三月の海 無駄はなにひとつない  

北 れいこ


非常事態至急ライオン呼びに行く 

内田久枝


ボビンレースのなぞなぞが解けません  

赤松ますみ



フィッシュアイ(自由吟誌上投句)


お前はしあわせか老木をなでる  

伴 よしお


咳をするたびに薄れてゆく記憶  

荻原鹿声


これでいいのです歩けぬことはない  

坂下和子


聞きたいことは話したいこと春疾風  

浜田則子


前向きの耳で兎は聞き分ける  

菅沼 匠


冬の蚊は指で摘んでふっと吹く  

久垣邦子


お話が途切れたままのπr  

てつろう


括られた句集ゆっくり朽ちていく  

岡崎光子


美しさはばっちりガラス越しの夕陽  

山本昌乃


これからは脚立で届く夢にする  

安藤敏彦


今日の日は今日しか無いとカタツムリ  

村野あかり


足音がけだるい 逢瀬拒んでる  

中嶋常葉


重なった雪10センチ寒い朝  

澤田幸代


この歳でポテトチップスなど食うか  

髙瀬霜石


迷うほどないのにファッション決まらない  

清水初乃


訃の知らせ焦げてしまった玉子焼き  

嶋口幸美


オレ十円玉コロンコロンとまたコロン  

磯野定喜


一グラムきっと咲きます咲かせます  

ただ れいな


結論が出ない他人のことなのに 

諸江宏明


再婚のリング初婚よりでかい  

みぎわはな


うさぎと亀 私は亀でございます  

西澤知子


三叉路で足踏みしてるだけの僕  

高浜広川


裸木にさむいわねって声かける  

中川喜代子


あさり蜆小粒になった男たち  

河内谷 恵


ねじ切れるまで縒りに縒る命綱  

利光正行


あまのじゃく今逆打ちの遍路傘 

佐藤后子


鳶職の足袋がやさしく空をゆく  

板橋柳子


希望が叶う日大地はみどり色  

山本野次馬


知らん振りせずに夜業で降った雪  

笹原子墨



それぞれが言葉を丁寧に思い、心から書かれた作品です。


会員作品には外部の方からの、そして投句くださった自由吟にはますみさんがお一人ずつに丁寧に鑑賞を書かれています。


他にも印象吟や誌上課題吟、句集の鑑賞のページ、会員による「私の選んだこの一句」など、本当に充実した楽しい記事が盛りだくさんでした。


終刊を惜しむ声がたくさん寄せられたページを読んで、いかにコロキュウムが愛されていたかを、改めて感じ入ったことでした。

ますみさんの川柳に向き合う真摯な姿勢に、私もいつも励まされてきました。


「編集ルーム」で、ますみさんが影響を受けたと言う「灯改題 抒情文芸」に触れていました。私はその文芸誌を知りませんが、その抒情文芸の編集後記に書かれてあった一節を引いて、ますみさんは川柳文学コロキュウムの在りようを示していました。その一節を書かせていただきます。


「ひらめいてたまゆらに消える思いや美しいことばのひびき、あえかなおもかげ、とどめがたいさまざまなものを、ひとつに集めたら<抒情文芸>になるのでしょうかーこの<>の部分を《川柳文学コロキュウム》と置き換えることがゆるされるとうれしい。(赤松ますみ)」


川柳文学コロキュウムは、「川柳文学社」から引き継いできた歴史やさまざまな思いが幾重にも重なったミルフィーユの味がしました。

せんりゅう、ごちそうさまでした。

川柳アンジェリカロゴ
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