せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2025年7月1日
触光 86号

私が川柳を始めたころ、青森県には髙田寄生木さんの編集による「かもしか」という川柳誌がありました。そこに載っている川柳作品は、その頃の私にとって新鮮で、貪るように読んだものでした。
でも「かもしか」は2002年終刊となってしまいました。
「触光」は、「かもしか」での重鎮だった野沢省悟さんが個人誌として2007年に創刊されたそうです。
以下に野沢さんからうかがった「触光」の現在地を書かせていただきます。
「川柳触光舎」
平成19年創立。野沢省悟個人誌。機関誌「触光」年四回発行。現在86号。
全国各地の川柳人が参加しています。
*年会費
・会員一万円(全欄に投句できます)
・誌友五千円(会員作品欄以外に投句できます)
*投句欄
・触光集(会員自選欄)
・今生抄(会員誌友共に投句できます。野沢省悟による全投句者の選評をします)。
・誌上句会(現在青砥和子選、会員誌友が投句できます)
・THE時事川柳(川柳マガジンで難解句鑑賞執筆の濱山哲也選、どなたでも投句できます)
・髙田寄生木賞(評論・エッセイ等文章による賞を年一回募集しています)
触光集より(会員作品)
あさがおの加賀千代女が二つ咲き
佐々木久枝
大寒の生まれ逝く日はぼたん雪
吉見恵子
土手の水仙一斉蜂起
鈴木節子
百年の隙間から漏れてくる嗚咽
小暮健一
戦争やめて地球儀回しませんか
菅野佳都子
停戦て消しゴムで消える約束
滋野さち
大脳皮質はサイバー攻撃受けている
浪越靖政
介護の手ふえて千年滝桜
橋本あつ子
またしてもわたしをよごすごはんつぶ
鳴海賢治
茶柱を寝かせて待ったイエス・ノー
千葉かほる
気が付くともう夕暮れになっている
津田 暹
鉛筆を一本筋は通すもの
船水 葉
似て非なるも のです成人と大人
濱山哲也
泣き虫に魔法をかけたフライパン
中村誠子
豪雪ものこり少なく 規万作
尾形せいじ
アイロンをかけた字面で来る知らせ
白花
いつだって魔女の箒は西まわり
𠮷田州花
花散ってまた振り出しに戻るべし
木本朱夏
弁当を開く音楽流れ出す
柳谷たかお
言い過ぎて春の帽子が飛んで行く
中山恵子
雑草に名前をつけて抜いている
野沢省悟
今生抄より(誌友作品)
花粉症止まぬドドドドドットコム
竹尾佳代子
赤恥に栄光みんな春の塵
金子泉美
無言無言 大根の首切り落とす
宗村政 己
ふんふんと緑に鼻をくっつける
島村美津子
駅前の中身は全てたこ焼き器
まつりぺきん
五十年褒められたこと覚えてる
饗庭風鈴
脱水を忘れ終了ブザー鳴る
渡辺敏子
吊革に疲れが下がる月曜日
穐山常勇
木の香り潮の香りと万国旗
森田旅人
収拾がつかないヨーグルトのままで
千春
大根よりカボチャに近い家系です
青砥和子
歪んでる月を相手にできようか
熱田熊四郎
感触はふうわり海月のぬめり
春口倭文子
いつもの暮らしでも転んだらあかん
東川和子
雪解けの流れる音が目に光る
小保内たびと
忘れてたけど家族っていいな真っ直ぐ
越智ひろ子
あたまのなかにさいたたんぽぽさくら
勝又明城
ワタシにはとても出来ないかくれんぼ
野川 清
議会延長 ソースの染みが広がって
伊藤寿子
再稼働あの壁の穴開いたまま
橋本あつ子
慌てるとうっかり穴を間違える
奥田悦生
人付き合いの薄さあの角もこの角も
近藤真奈
ほうき星声に出せない願いごと
川原田美奈
ポン菓子のドッカン桜目を覚ます
奥田尚子
持ち歩く笑顔七難寄せつけず
小沢 淳
おばあさんは桜が好きで長生きで
谷口 義
持続可能とは人間の勝手だ
岡 嘉彦
踏まれても踏まれてもタンポポの息
小野善江
今回、ご紹介した86号は、「第15回高田寄生木賞」の発表号でもありました。
高田寄生木賞 「時実新子論ー自己嫌悪の昇華ー」
澤井和水(東京都)
入選賞 「川柳の題について思うこと」
橋倉久美子(三重県)
入選賞 「句集のレシピ」ー自作自演インタビューー
城水めぐみ(兵庫県)
入選賞 「壁は壊して抱き締める」ーポスト現代川柳から読む中村冨二ー
西脇祥貴(三重県)
入選賞 「川柳活動を振り返って」
滋野さち(青森県)
とても有意義な企画だと思いますが、来年の第16回で最終回ということになると告知されていました。
作品群の馥郁とした香りと味わいは、辛口の吟醸酒にも似て、ほろ酔い加減になりました。
せんりゅう、ごちそうさまでした。



