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川柳で踊らせて
アンジェリカ会員&藤田めぐみ
2025年6月2日
#Act 23

頼んだらあの日の雨は降ってくれるの
須藤しんのすけ
別れ話の途中で、急に雨が降ってきた。
まるで空が会話を切ったように、ふたりとも黙って
傘も差さずにその場に立っていた。
頬に触れたのは、涙か、雨か、わからなかった。
でもあのとき、確かに言えなかった言葉があった。
ほんの一言、たった一呼吸ぶん
遅れて出てこなかった言葉。
時間がたって、私たちは別々の場所で別々の人になった。
けれど、雨の音だけは、あの夜のまま耳の奥に残っている。
だから、時々思う。
もし願いが届くなら
あの日の雨だけをもう一度、降らせてくれないかと。
戻りたいわけじゃない。
やり直したいわけでもない。
ただ、あの雨の中でもう一度だけ
言えなかったあの言葉を、自分のために言ってみたい。
たとえ、誰にも届かなくても。
Text/produced by FUJITA Megumi
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