top of page

​川柳で踊らせて

​アンジェリカ会員&藤田めぐみ

2025年3月15日

#Act 18

忘れ傘群れるノーサイドの笛に


菊池 京


インバウンドのご時世になる前は、京都へよく行っていた。

スケールの大きな神社仏閣が好きで

中でも"推し寺"の一つが、知恩院。

"知恩院の七不思議"をめぐるのがいつも楽しくて

昔の人もこのアトラクションでわくわくしたんだろう。


そんな七不思議の中の"忘れ傘”。

御影堂正面の軒裏の、骨ばかりとなった傘の先

「見えた見えた!」と無邪気に喜ぶ人々。


やっぱり、大工さんが魔除け・火除けで置いたというより

白狐が置いていった傘、という説がいいなと思う。


御影堂を建立する時に、そこに住んでいた白狐は棲家を追われた

それを恨んで仕返ししようと童子に化け

雨の日にずぶ濡れになってやってきたが

和尚の説法を聞いているうちに改心。

和尚は白狐に「この寺を守ってくれたら祠を建てよう」と約束して

傘を貸してやった。

翌日その傘が、御影堂の軒先に置いてあった、というお話。


仕返ししようとした白狐にも、知恩院の和尚にも

それぞれの事情と正義があるのだ

でも、ノーサイドの笛が鳴り響いたら

敵も味方も、恨みつらみも

雨上がりの空に消えてしまう。


俺も私もあの人も

それぞれの事情と正義の"忘れ傘"を持っている。

ともすれば、振りかざしそうになるその傘。


ノーサイドの笛は

誰かの雨の軒先へ優しい気持ちを届けるために

その一本一本の傘を、解き放ってくれる。


Text/produced by FUJITA Megumi



川柳アンジェリカロゴ
bottom of page