会員作品を読む
笹田かなえ
2024年8月
2024年8月1日
へそ茶飲むバミリが右へ媚びている
河野潤々
「バミリ」!お芝居で役者の立ち位置を決める際、舞台上に貼るテープの事。
ばかばかしいことを受け入れ、本心とは違うお追従を言わなければならない状態がなんともやるせない。
だが、社会における人との関りは、そんなことの連続。
その場から退却したら、行きつけのお店で美味しいお酒をひっそり飲んで、へそ茶の口直しをするに限る。
それにしてもバミリのインパクト!
ハスキーボイスのバター味 熱いね
旅男
「ハスキーボイス」に、今話題の某朝ドラ「虎に翼」の伊藤沙莉(30)さんが思い浮かんだ。
欠かさず観ているが、本当に寅ちゃんの活躍が熱い。
でも「バター味」に、はて?バター味の何かがあったかなと思ったら、寅ちゃんの持ち歌「モンパパ」がそれっぽい。
男女の括りなく、人間としてお互いを尊重しあえる社会の実現に、この句はエールを送っているようだ。
流星になる真夜中の逆上がり
藤田めぐみ
官能句。暗闇を漂い、燃え尽きるまで流れる流れ星に仮託した身体の浮遊感がすごい。しかし、それはただ甘いだけの時間ではなさそうだ。
「逆上がり」の言葉にいささかの「苦痛」が滲む。
甘美な時間に耽溺することを阻む何かに抗いながら、それでも没入しようとする性の深淵が、垣間見える。
性愛句は難しい。品下ることなく格調高い性愛句として、静かに見入った。
二言目には「混ぜるなキケン」夜半の夏
四ツ屋いずみ
そうそう、夏の夜はキケンがいっぱい。夏祭りに花火大会に盆踊り、夜更かしもするし。
どこでナニとナニが化学反応を起こすか分かったものじゃない。
「夜半の夏」の季語が古典ぽくて面白かった。「枕草子」の「夏は夜」だし、紫式部の「めぐりあひて…」にもリンクしているような。
「混ぜるなキケン」の現代用語に平安時代を絡めているみたいな感じがあって、楽しく読んだ。
亡母の琴ただの木になる立ち枯れる
金瀬達雄
琴の材質は桐。特に会津桐は多孔質という特徴があり楽器としての音響性にも優れているそうだ。防虫効果、吸湿効果などもあるという。
「なる」「立ち枯れる」の畳みこむような書き方に、母の死を認めてからの葛藤
の姿がうかがえる。大きな喪失感だ。
しかし、亡くなられたお母様愛用の琴は、もう誰にも触れられることは無いかもしれないが、まだ仄かに息づいているように思う。