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会員作品を読む

​笹田かなえ

2024年8月

2025年8月1日


この夜にいちばんまばゆい月になる

温水ふみ


月の美しい夜はなぜか切ない。「原始、女性は太陽であった。しかし今は月である」と言ったのは、時の思想家平塚らいてう。しかし、今は令和。月であっても「いちばんまばゆい月」として、燦然と夜空に輝くというのが令和流なのだ。「この夜」の断定はその決意をいっそう強いものにしている。「君は日の子われは月の子顔上げよ(時実新子)」の句碑が青森県にある。



価値観を晒してフルーツ寒天

飛和


寒天は天草などの海藻を原料として、昔は冬の寒さに晒して作られていたそうだ。「フルーツ寒天」は一時の涼として目に鮮やかだ。しかし、真冬に作られた寒天が夏の風物詩になるのはどこか皮肉っぽくもある。「晒して」の言葉の持つ強さを考えた時、ふと、昨今流行りのSNSが浮かんだ。寒天の製造工程を想起させる「晒して」が「価値観」であるところに自戒も込められているようで、この句の持つ深さが伝わってくる。



濡れた靴 遊覧船は出ましたか

藤田めぐみ


遊覧船の発着場近くに佇んでいる人がいる。遊覧船に乗りたかったのだろうか。しかし遊覧船の影も形もなく、去って行ったであろう方を見ているだけ。「濡れた靴」と「遊覧船」の間の一字空けに流れた時間の長さを感じる。絶望とまではいかない諦観が「濡れた靴」に表れている。乗り遅れてしまった者の悲哀が滲んでいる。船ではなく「遊覧船」にしたところと「出ましたか」の問いかけに、ゆらぎのある危うい心情を見た。



孤独ならすっかり慣れているカモメ

峯島妙


「孤独」と「カモメ」ときたら、どうしても渡辺真知子のヒット曲「かもめが翔んだ日」になる。と思っていたら、ちあきなおみの「かもめの街」という歌があるのを知った。こちらの歌の方が掲句に近い。カモメは歌にもなるほど身近な鳥ではあるが、目やくちばしは鋭い。カモメが孤独に慣れているかどうかは分からないが、野生に生きるものとしての覚悟がその空を飛ぶ姿にある。



オカリナとメロンソーダの無責任

伊藤良彦


えっ、何が無責任?オカリナと言えば「コンドルは飛んで行く」の曲だし、メロンソーダは夏にピッタリの爽やかな飲み物じゃない?何か理由のあるシチュエーションかもしれないけれど、解らない。解らないけれど、この組み合わせはどこか郷愁を誘うようなところがある。寺山修司を拠り所としていた時期があったけれど、この組み合わせにその時の心持を思い出している。



倦怠期プラスのドライバーがない

菊池京


「倦怠期」、ネットで調べると「(主に夫婦の間で)互いにあきていやになる時期」とある。うん、確かにあるある。でも掲句はそれを何とかしようとしているんだね。そのきっかけの言葉とか行動を「プラスのドライバー」と見立てていると読んだ。すると一転、「プラスのドライバー」という無機質なものが情緒あるものになって、想像力を刺激してくる。何気ない日常を川柳にするって、本当に楽しい。



漂白剤は自分に媚びる

河野潤々


「漂白剤は(ひょうはくざいは)/自分に媚びる(じぶんにこびる)」は七七音字で構成されていて、七七句あるいは十四字とも呼ばれている。十四字詩と呼ぶ人もいて、川柳や俳句の人も作品を書いている。俳句の自由律俳句では「うしろすがたのしぐれてゆくか(種田山頭火)」などがある。種田山頭火は漂泊の俳人とも呼ばれている。「漂白剤」と「漂泊」の似た言葉のつながりを考えながら読むと、可笑しみが漂う。



珈琲はふたつ言いたいことひとつ

斉尾くにこ


珈琲が「ふたつ」と言うことは、誰かと一緒ということで、その相手に言いたいことが「ひとつ」だけと言うのは、あまりいい展開になりそうにないなと想像してしまう。と書いて、そうならない場合だってあると思い直してみた。初めてのデートでも言いたいことはひとつだった。「珈琲」の漢字表記は苦みのある大人の時間っぽい。だからこそ、このドラマはハッピーエンドになって欲しいと思うのだ。


ポリリズム繰り返される夏の夜

鈴木雀


「ポリリズム」と言う言葉を知ったのは、パフュームの「ポリリズム」を聞いた時。リズムというか声と言うか音のすべてが複層的に聞こえて非現実的な空間を感じた。今までに聞いたことのない近未来的な空間(あくまでも個人の感想です)がパフュームの「ポリリズム」にはあった。「ポリリズム」とは2つ以上のリズムが正確な時間とテンポで演奏される組み合わせのことだそうだ。ポリリズムは確かに寝苦しい夏の夜の雰囲気がある。「ポリリズム」という言葉で、川柳が一気に新しい感じになった。



あの人の夜と寄り道しています

須藤しんのすけ


「あの人」ではなく「あの人の夜」としたところにすべてがある。もう傍にはいない「あの人」を偲んで、あの人と歩いた夜道を辿っているのだろう。ほろ酔い気分で、楽しかったあの頃を思い出しながら…。あ、もう駄目だ。泣きたくなってきた。優しくてそれでいて淋しい語り口に、読む側も思い出の扉が開く。



各家庭カオスどろっと「カレーだよ〜っ」

旅男


「カオス」には「混沌」や「無秩序」などの意味がある。ホント、お家の事情はそれぞれ。嫁姑問題や介護問題、子供の引きこもり等々…。はい、経験ありますよ(笑)「各家庭」の「か」「カオス」の「カ」、「カレー」の「カ」と韻を踏んでユーモアたっぷり。明るい家庭の代名詞に「ごはんだよー」の呼び声があるが、それを彷彿とさせられる「カレーだよ〜っ」はまさに混沌の極み。



免許不要なので今日は月になる

西山奈津実


書きぶりの何とまったりしていること。「今日は」とあるから夜とは限らない。昼の月のうすぼんやりした白さを思い浮かべると、確かに免許は要らなさそう。それにしてもこの句の大らかさはどうだろう。「免許不要」なので「月」になるという発想は、何事にも囚われることのない自由な心の証として、読む側を楽しくさせてくれる。


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