せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2026年11月1日
川柳黎明 No.26

川柳黎明 No.26 平成16年7月1日発行(隔月刊)
川柳黎明舎は、1999年に「新京都」の北川絢一朗氏がお亡くなりになって終刊のあとに、坂根寛哉氏と田中博造氏が立ち上げました。
「川柳黎明」誌は隔月刊となっています。
それぞれのコーナーには、個性豊かな作品があふれていました。
会員ではなく舎員という呼称も趣があります。いいなと思った作品を紹介させてください。
花洛集(舎員作品)
朝顔の蔓うつし世の背伸びする
岸下吉秋
風讃歌風よりさむい飯を喰う
前田一石
潮騒の中でふやけた唄になる
杉原正吉
深海魚のかたちに夕陽が沈む
足立玲子
喪の家にふりしく桜忘れない
永峯八重
石だたみの冷えも温みも知りつくす
羽田国子
傍観者の貌して朝のゴミ袋
大槻和枝
自信ありげに落とし蓋の踊り
井上裕二
愛それを少しは乗せただまし舟
小林満寿夫
変なところで笑う男と同じ年
山本 礫
留守番電話だったすらすら言えた
森本夷一郎
ラーメンを待つ列二、三人動く
櫻崎篤子
人生が少しわかってきた帽子
森田弘子
無駄骨をいっぱい折って楽になる
宇治田志寿子
あらばしり心に雨がつたうとき
阪部文子
やや黴臭あって堕ちつく男の忌
福光二郎
洗礼にしては火の粉が多過ぎる
木村良三
手のひらの皺が確かに増えている
青木十九郎
いくさありカフカの「城」を洗濯す
井出 節
無人駅でゆっくりハンカチ乾かそう
片野智恵子
軽い病いで薬袋は塩・胡椒
岩根彰子
毒づいてみたい日もあり濡れ雑巾
永野芳子
釦を磨いて磨いて掛け直す
森口かな江
ベッドから厨房までの散歩みち
藤村涼子
切れ味は風が見分けるひとり言
松下放天
一言二言三言石段ふみはずす
荻野美智子
楽になった寂しくなった一周忌
長藤泰敏
二本目の傘も返さぬ奴がいる
清野玲子
息止めて鯛の粗打つ寒い苛立ち
高橋はるか
価値観が揺れ動いてる花いちもんめ
桑田宏子
存在を問う睡蓮が浮いている
坂根寛哉
手術台父の享年ふと思う
東 おさむ
意思表示まっすぐ七月のまつり
松本としこ
連敗も連勝もあり傘を干す
北原照子
ブラームスのひびきに建仁寺が揺れる
山本ひよこ
絵の中に残す六月の秘密
上砂眞笑
ライラックとてもやさしく咲きすぎる
荒井慶子
片眼つむって笑っているのは六月だ
西川けんじ
七躰目の野のほとけですにぎりめし
田中博造
「加茂の抄」は舎員だけでなく、誌友の方も投句されているようです。
舎員の方以外の方の作品を紹介させていただきます。
加茂の抄
福光二郎 選
生活に追われて消えてゆく目尻
松蔦聖一
ビニール傘大阪弁でさしかける
飯田良佑
神話からこぼれた馬は星になる
内田真理子
遠景の錯覚空が落ちてくる
小山紀乃
にんげんの腐臭を放つ甕の底
平迫千鶴
コンコンコンコン誰もいないと知っている
蟹口和枝
雨雨雨たましいひとつ潰される
矢吹雅男
勤行の鐘救急車コケコッコー
森 恵美子
原点をさぐると何となく孤独
高橋秀峰
柿八年あと何年の誕生日
永野こずみ
ひとりにしないでアメとムチ下さい
岡本久栄
八十の母が堂々巡りする返事
安野かかし
生活のにおいなくしている和服
青木紀雍子
頭髪を玩具に似せて染めている
池澤大鯰
逃げた風船に私の心もついて飛ぶ
平井美枝
したたかに壁の落書さけんでる
大西彩雲
かけひきを楽しんでいるねぎぼうず
吉岡 民
ゆきずりに花苗交えてからの知己
淺田春郎
鏡田に一番乗りは青ガエル
吉田祐子
何もない何もない日も空は青
西田雅子
課題作品のコーナーも充実しています。
最後に掲載されていた作品を書かせていただきます。
課題作品「勇気」 選者 櫻﨑篤子
傷口に触れる勇気よヒロシマ忌
荻野美智子
「桂の譜」 田中博造 選
このコーナーは田中博造さんの選を受けるコーナーのようです。
40名ほどの方が投句なさっています。
一番気になった句を一句だけ紹介させてください。
人間はそういうこともしてしまう
川崎誠太郎
月に一度の句会も盛況のご様子です。
4月句会から印象に残った作品を書かせていただきます。
「台」奥山晴夫 選
だいこんの花を咲かせて生きのびる
寛哉
「チャンス」前田芙巳代 選
排水口へ一直線に流れたチャンス
智恵子
「舵」杉原正吉 選
ノアの方舟から落ちてきた舵
良佑
青木十九郎 選
丘の木がやさしく庇ってくれました
二郎
「台」田中博造 選
砲台の跡蝶がきて黄を残す
俊介
5月句会からの作品です。
「こども」 板野美子 選
うちの子も混じってそうなちりめんじゃこ
夷一郎
「苺」墨 作二郎 選
真夜中の間違い電話から苺
祥文
「戻る」森田弘子 選
正面を向く駆け戻らないために
ゆみ葉
「空気」小林満寿夫 選
黒いから黒いと言って空気病む
八重
「銀」森本夷一郎 選
逃げよ逃げよ新口村は銀世界
柊馬
黒から銀へわたしあなたを待ちすぎた
のり子
読み物も錚々たる方々が書かれていて、興味深く読ませていただきました。
青森県の岩崎眞里子さんは「作者と読者をつなぐもの」というタイトルで、ご両親を看取った経験から、川柳を読む気持ちの移り変わりを書かれていて、胸を打たれました。
「平明化について」――現代性について―― と題して新川洋洋さんも大変興味深い一文を寄せられています。
社会状況における経済生活を例にとって、川柳もまた重厚長大な時代には硬派のイメージで、軽薄短小な時代には軽みへ寄せてきていると書かれていて、言われてみればと納得の部分でした。
「川柳黎明」は、残念ながら2016年に解散されているようです。
何故、私の手元に「川柳黎明」があるのか不思議ですが、おそらく「展望」の大会に参加した時に、どなたかにいただいたのだと思います。坂根寛哉さんとお会いしたような記憶もうっすらあるので、坂根さんだったかもしれません。
それにしてもそれぞれ皆さんの作品は、本当に心惹かれるものばかり。
それはまるで京都の代表的なお漬物のすぐきの、熟成された奥深い酸っぱさと複雑な味わいで、体にも心にもいいお味でした。
せんりゅう、ごちそうさまでした。

