せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2026年9月1日
現代川柳 点鐘 171号

現代川柳 点鐘 第171号 平成27年7月発行
地震の時に崩れた本を整理中です。
30余年川柳を書いてきて、その間に読んできた川柳誌や句集をどうするか悩んでいます。
立派な表紙の川柳誌でも、もう読まないと思うものは残念ですが捨てることにしました。
「点鐘」は、A4のコピー用紙にコピーしたものを半分に切って、A4サイズの表紙を半分に切ってはさんであります。片面印刷で、その1ページごとにノンブルがあり、11ページまで打ってあります。
ZINEの走りのような手作り感いっぱいの冊子です。
目次もなく、いきなり会員作品と、作二郎さんの選評から始まっています。
掲載されている会員作品について、その全部に作二郎さんは独特の文体で選評を書かれています。
各自の会員作品から、私のいいなと思った一句ずつと、作二郎さんの選評の一部をご紹介いた します。
点鐘集 墨 作二郎・選評
あわあわと郷愁 空豆のみどり
大橋あけみ
夕日に濡れた父がポツンと立っている
清野玲子
やがて去るこの世に花の多いこと
春城年代
触るなと武蔵は言っているのです
福尾圭司
うれしそうに途方に暮れているコップ
普川素床
糸底にたまる夫婦の正念場
致命傷が降って来そうな快晴だ
裂きイカをぼそぼそ噛んで不戦論
坂を転がる林檎とボクの物語
ドミノにはなるなと金魚浮いてくる
微熱気味地球は悶えているようだ
父を捜せば月下の納屋に蹲る
進藤一車
*函館駅で買った駅弁は焼イカと握りめしだった。江差行きの車中で口にしたが、車窓は寒い風景。戦争時代を過した者に集団的自衛権が理 解できない。老いてまさに正念場である。
なめくじに生まれなかった保証はない
三浦 蓉
犬は老い五月の花の中にいる
今井和子
アザリアは多恨 線量は基準内
北田惟圭
フロントガラス越に遊園地の黄昏
竹内良伸
桜闇夢はひとひらずつ落ちる
小河柳女
九十歳の耳で聞いてる軽いジャズ
石川重尾
限界などど言わない様に芋の花
熊谷美智子
水田に映る 伊吹は変らない
知野見松子
目を離すと行方不明の浪になる
山田迷泡
限りなくグレー尻尾がつかめない
今田和宏
戯作者が懐紙に包んでいる軍靴 (劇場型)
幇間の口角に泡シュプレヒコール
テケテンテケテン出囃子に君が代
徳俵に九条を掛けている
洗脳の世紀パラオに沈んでいる
緞帳の重みに気づかない衆愚
やまぐち珠美
*富二は週刊誌を丸めていた。青竜刀は新宿十二所で馬賊芸宿の三味線を手にしていた。初対面は各々に恩白い。下駄履きの豊次と錦市場を歩き、春三とはゴヤ展、少し歩き疲れた。
洗濯機子どもを洗うよう回る
上野楽生
造花にもほんの少しの水が要る
瀧 正治
二匹目の泥鰌も同じ穴の中
佐藤純一
滝道へ赤目の牛のパスワード(赤目四十八滝)
万民がひれ伏している不動滝
七色岩に民草の居場所あり
逸脱をせよと骸骨滝がいう
一本の狼煙があがる姉妹滝
息継ぎは雨降り滝の傍らで
滝道でくだっていった雀蜂
小池正博
*車谷長吉を読んだ頃を思い出す。雨の日に歩いて途中で引き返したが、岩の名の色々が面白くて記憶に残って、今一度を考えることがある。朝から雨。
夢はもう値引きシールの下あたり
小野善江
ストレスが溜る 風見鶏廻り出す
木村良三
ドクターイエローを見たと孫に電話する
畑山美幸
白い城には白い覚悟がある様だ
石垣のゆるいカーブにある戦さ
やさしさに慣れてしまった金魚草
独りがよくて独りの飯をあたためる
乳房にふれてから青い恋人たち(シャガール展)
横顔に重ねる横顔 いつか水を飲む
神の言葉でバラを塗りつぶす
前田芙巳代
*姫路城がきれいになって観光客が多くなった。白い覚悟があるのが感じられるのが判る。鉄砲狭間矢狭間の道を何度歩いたことか。遠い歴史を思うと胸が痛む。シャガールの恋人達は空に。
ペラペラめくる頁 私を置き去りに
北原照子
嗅いでみる舐めてみる 賞味期限はそれなりに
里上京子
夏空を裏返しても夏の空
平賀胤寿
病室の窓歳時記の絵解きする
飯田 昭
天国で逢う約束が増えてくる
田中しげ子
埴輪まんじゅうになってしまったお父さん
西澤知子
クリックしても鞍馬天狗は出て来ない
阿部桜子
六文銭で塞ぐ 大阪のおへそ
吉岡とみえ
ビー玉を透かせば見える少年期
加藤かずこ
本当も嘘も言えずに冷たいトマト
森田律子
箱根山富士と相談いつ噴火
牛蛙ぶうぶう婚活うるさいぞ
菊を挿す手つき本物のおばあさん
死ぬ人に鞠子の宿のとろろ汁
人が逝き春が逝きますどうします
記録よりメダル欲しいわ金銀花
仲のよい姉モネ妹ネ二人展
渡辺隆夫
*単身赴任の宿舎が青田に囲まれていて牛蛙の鳴き声に悩まされた。今にして婚活の必死が判って笑ってしまう。鞠子の宿は広重の旅のついで、噴火は宿命の程。五輪は屋根の事か。
ふところの深さに風が吹き抜ける
福田 弘
人民のによる人民のためではない政治
一階八斗醁
母さんの日めくり三日進んでいる
北村幸子
川を渡る日ラジオを買いました
徳田ひろ子
しばらくは夢それからは太平洋
北川アキラ
メダカ飼う すこしづつやんちゃ
神野節子
阪神負けてますか 雨が降り出した
南野勝彦
淋しいと大きな音がする茶碗
大嶋都嗣子
途方もない壁の秀逸な落書き
佐々木久枝
ゆっくりと迷っていいという扉
こうだひでお
ごみ箱に入れるとごみになる手紙
月波与生
濃淡の淡いところでうぬぼれる
北里深雪
習字教室 大きく息吸って吐いて
八木侑子
尼寺も心療内科も混んでいる
笠嶋恵美子
利晶の社 墨 作二郎
雨やんで ちんちん電車耳鳴りする
フェニクス大通り 宿院迷わずに
利休屋敷跡古井戸 青いメロン
利晶の杜堺絵図 欠伸の旅仲間
駿河屋夏のれん 青い海鳴り
利休居士井戸茶碗 砂のらくがき
百首屏風はコクリコの旅 源氏絵図
私は点鐘の会員ではないので、手元にあるのが不思議ですが、本多洋子さんからいただいたのだと思います。
今となってはとても貴重な一冊です。
それぞれが思いのままに書かれ、それを作二郎さんが思いのままに読まれています。
作品とその評は、作家と作二郎さんとの真剣勝負のようにも感じました。
昔、コーヒーのコマーシャルで「よい珈琲とは悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い」というのをよく耳にしたものです。
「現代川柳 点鐘」171号は、まさにそんな味わいの一冊でした。
せんりゅう、ご ちそうさまでした。

