せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2026年3月1日
晴 7号

「晴」は樋口由紀子さんの編集・発行として2018年に創刊されました。
一年に一度の発行で、2025年の8号をもって終刊となりました。
終刊になったのは、樋口由紀子さんがその前年に大病をされたことによるものです。
由紀子さんは2026年2月11日にご逝去されました。
「晴」は非売品でしたが 、私も毎年一冊ずついただくことができていました。
とても読み応えのある盛りだくさんな内容で、由紀子さんのやりたかったことで溢れていました。
「晴」7号 (2024年3月10日発行)も、そんな由紀子さんの気概が満ちています。
メンバーの作品から2句ずつ紹介させてください。
十月の雨に既読が付いている
耳鼻科で聴かされる木耳の記憶
月波与生
口癖のこれが人生蒸かし芋
暮れ方の空の誰かの忘れ物
松永千秋
鏡から出てきて鍋の底にいる
待ち針の残るいっぽん抜いて鳥
広瀬ちえみ
疼くのは南天の赤 すみません。
パインの孔にひとは通るか
いなだ豆乃助
曖昧の同心円を麒麟草
ずっと夜の追伸いないいないばあ
妹尾凛
想像ができるくらいの冷御飯
金色の前に座っているつもり
樋口由紀子
棒の如きものつっかえている師走
締切を覚え切れない雀たち
水本石華
川柳の作品以外に、メンバーそれぞれによる詩、エッセイ、評論などが掲載されています。
「星をつなぐ」と題して、梅田蔦屋書店の文学コンシェルジュであり俳人でもある永山裕美さんは、川柳関連の情報だけでなく、文芸誌全般の現在地を述べられています。田辺聖子の「道頓堀の雨に別れて以来なり」以後の続きが書かれるべきだと強く主張されているのに、ハッとさせられました。
また、2023年にお亡くなりになった石田柊馬さんの追悼文を松永千秋さん、広瀬ちえみさん、いなだ豆乃助さんがそれぞれの関わり方から書かれているのも興味深かったです。
「いちご畑とペニー・レイン」について、いなだ豆乃助さん、松永千秋さん、妹尾凛さん、広瀬ちえ みさん、樋口由紀子さんのメンバーの評があり、贅沢なページだと思いました。
いなだ豆乃助さんは斬新な手法で書かれた四編の詩を寄せられています。
広瀬ちえみさんは「~みちびかれるように、会うべくして会った~魚住陽子句集『透きとほるわたし』について、とても丁寧に触れられていて、物語を読むように読ませてもらいました。
妹尾凛さんの「アポロチョコー芳賀博子『髷を切る』文庫版」は芳賀さんとのエピソードが微笑ましくて、楽しく読みました。
月波与生さんの「『満天の星』~出版社だったり本屋だったり」には、「満天の星」が今のようになった経緯が書かれてあって、なるほどと読みました。出版状 況の変遷は本当に目まぐるしいものがあります。
松永千秋さんの「『天満宮』と『蘇我石川の宿禰』」は、ご近所にある天満宮が事故により壊れ、その再建のご様子が、歴史的背景も加えて書かれてあったのが面白かったです。
水本石華さんの「季節を泳ぐ川柳」は「動詞別川柳秀句集かもしか篇」をもとに書かれていました。俳句の人が川柳を読むときの着眼点に、「そう来たか」と感じ入りました。
樋口由紀子さんが書かれた「私の好きな川柳人 Ⅵ」では石田柊馬さんを取り上げていました。とっても柊馬さん愛に満ちた文章で、しみじみとしました。
この号には、2023年に仙台で行われた第一回ブレンド句会の翌日 の連句会の歌仙も掲載されています。

「晴」をいただいた時に由紀子さんにお礼を言ったら「ちゃんと感想を書いてね」と言われました。
その時は「はい、絶対に!」と答えましたが、書けないままでいました。
そのことを今、とても後悔しています。
由紀子さん、本当にごめんなさい。
終刊である8号にはまだきちんと向き合えていません。
なので、由紀子さんがまだ発病され ていなかった頃の7号について書かせていただいたことをお許しください。
「晴」は言葉の可能性を追求していて、とても知的レベルの高い冊子だと思っています。
ブドウの女王と呼ばれているマスカット・オブ・アレキサンドリアは、エメラルド色の美しさと香り高さ、そして舌に転がるやさしくもさわやかな甘みは、唯一無二の存在として、愛されている果物です。
「晴」はまさにそのマスカット・オブ・アレキサンドリアの味わいがしました。
せんりゅう、ごちそうさまでした。

