せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2024年8月1日
川柳展望創刊号 前編

「川柳 展望」は、時実新子の「一誌上で川柳のアンソロジーを」という長年の夢を叶えるべく、時実新子の個人誌として創刊されました。
季刊誌でただいま198号。
創刊は1975年ですから、来年は50周年になります。
その創刊号ですが、入手できたのは本当に幸運なことでした。
いただいたときはページを開くのも恐れ多くて、ずっと引き出しの奥に隠して(笑)おいたのですが、最近、やっと読むためにあるのだと気が付き、おそるおそる手に取りページを捲ったのでした。
大先輩の作品に対して、鑑賞などを書くのは今の私にはとうていできません。
でも、少しでも多くの人にあの頃の川柳人の熱気を知ってほしくて、創刊号に掲載されている特別作品、会員作品から一句ずつ、恐れながら勝手に選び書かせていただきました。
前・後編の2回に分けてお送りします。今回は前編です。
夫婦逢う小さな童話こわさずに
定金冬二(冬二百句)
近道のそれより近い けものみち
前田芙巳代(特別作品)
川はゆっくり拒絶もせずに凍らずに
寺尾俊平(特別作品)
雪やんでわたしと死んでくれますか
橘高薫風(特別作品)
いつのよのいつのまにやらさくさくら
大島無冠王(特別作品)
コロッケなどがある背信のない世界
坂根寛哉(平安)
さくら雪洞火の疵さえもおぼろにす
藤川良子(ますかっと)
それは小さな柩を運ぶ花筏
ウオミタカコ
こと茲に日本の歴史腹を切る
森本夷一郎(番傘人間座)
厚着した春は人見知りに戻る
天根夢草(番傘)
揺れる葦愛を裸にして痛む
西山茶花(ますかっと)
夜を企めば 右折禁止の街に出る
坂本珠女
歯車も錆びてさくしゅの音をきく
佐藤岳俊(はつかり)
十指開いても翔び立つ何もなし
住田三銛(番傘)
おはようは素焼きの壺の二の心
岩下美樹(ふあうすと)
おろしがねきみにさからうものがなし
西尾のり子
嚙み合わぬ歯車軸を切れ軸を
仲原己恭
風船に針さすおもい抱きつづけ
柴田午朗(番傘)
逃げ易き日なり血まみれ夕間暮れ
金子青泡
鬚伸びる子になっている鯉のぼり
桑野晶子(さっ ぽろ)
人間が生き人間が死ぬ土の上
香川酔々(川柳塔)
自画像青く 糸杉の道ひきかえす
淡路放生(番傘)
山彦が大仰なのでなおさらどもる
児子松恵
支那栗の鍋を見ていた長い時間
有信新之助(川柳塔)
てのひらを開いてかくしごとを持つ
永田暁風
死とは解き放たれる明かるさなのか
丸山弓削平
黒いレポートBGMの曲えらぶ
安井久子(番傘人間座)
磔刑の釘から落ちた紅椿
来住タカ子(ふあうすと)
人形の冷たさなんの罪だろう
行本みなみ
死を一夜思いとどめる太古の血
松本 仁
有縁無縁毛虫が覗く風の穴
伊藤 律(杜人)
そのときはわたしにもある縄梯子
林 玉枝
泉くみつくして町の記念館
浜島中呂(川柳研究)
雲の峰崩れて遠い嗤い声
大路美幸(川柳塔)
杖にぎる指が束なす 四月の冬
向山乃影子
らんまんの花蒼白につづりかた
窪田久美子
イタコより暗い破船の屋根のタンポポ
村上秋善(ねぶた)
人形の家に積木が焦げていた
板尾岳人(川柳塔)
きぬた打つ音に女は甦れ
早良 葉(番傘)
風船を飛ばす深夜の壁飾り
林 里香
立てるべき旗は持たない 旅の果て
斉藤正一(番傘)
まばたきにくるりと星の色を買う
小林比呂子
船団の呪いは海に満ち満ちて
戸田酔古
交通事故とことわって神経科
河村露村女(番傘)
てのひらをこぼれる砂に温められ
有馬やすお(ふあうすと)