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会員作品を読む

​笹田かなえ

2026年7月

2026年7月1日


氷砂糖の夢には青い薔薇が咲く

飛和


昔は普通におやつとして食べられていた氷砂糖だが、近頃はおやつと言うよりは果実酒など使う機会が多い。梅やレモン、あるいはイチゴなどを焼酎と氷砂糖と一緒に漬け込むと、馥郁とした味わいの果実酒が出来上がる。薄暗いところで静かに果実と氷砂糖とお酒が融け合っていくのはどこか神秘的だ。掲句は果実酒のことではないかもしれないが「氷砂糖の夢」という措辞に幻想的な響きがあり、果実酒の熟成していく様を想像したのだった。青い薔薇は自然界に存在しない。花言葉は「夢かなう」「奇跡」「神の祝福」。氷砂糖の夢はきっと「夢かなう」に違いない。



お焚き上げしたわシーとかランドとか

藤田めぐみ


「お焚き上げ」に笑った。掲句の「シー」と「ランド」は、日本最大のテーマパーク「東京ディズニーランド」であろう。1983年に開園して以来、子供にも大人にも大人気である。それを「お焚き上げ」したということは、もうすっかり縁を切ったと解釈できる。「卒業」でも「終了」でも「修了」でもない「お焚き上げ」には清々しさを覚える。ランドとシーのたくさんの記念の品物やそれにまつわる思い出も、お焚き上げの炎によってきれいさっぱり成仏したに違いない。「お焚き上げ」、お見事!



欲しいのはカタチないもの温いもの

峯島妙


これは難しい。「カタチないもの」とカタカナ表記にしているので、捉えどころがないものと判断した。「愛」とか「恋」と言いたいのだが、それじゃなんだかつまらない。「温いもの」でカタチの無いものと言ったら、ぎゅっと抱きしめてくれるひとのぬくもりかな。そのぬくもりは異性に限らない。困っている時、悲しい時に寄り添ってくれる、そんな心から信頼できる存在。でも、それは望んでもたやすく手に入るものではないのは重々承知している。だから、川柳にしてみたのよね。



ポケットに詰める迷いとチョコレート

伊藤良彦


時節柄、チョコレートをポケットに詰めたら大変なことになるよって、野暮な忠告はナシね。ポケットは二つあると仮定してみた。右のポケットには「迷い」で左のポケットには「チョコレート」。右手をポケットに突っ込んで、迷う事ばかりの日々にうんざりしながら過ごしているが、たまに左のポケットに手を入れて、大好きなチョコレートを確かめてはホッとする。生きるってそういう事の繰り返しだと、掲句は言っているように思った。



ピクルスの隙間かくれんぼは終わり

菊池京


ピクルスは、野菜の酢漬けで透明なガラスの容器で作るとなんかおしゃれに見える。きゅうりやニンジン、オリーブ、黄色や赤のパプリカなど入れるとカラフルで見ていて楽しい。そんなピクルスの瓶の中を矯めつ眇めつ見ているのかな。「かくれんぼは終わり」なんて可愛く書いているけど、掲句から漂う強い酢の匂いにただならぬものを感じている。無意識に酸味を欲するときは疲れている時に多いという。ご自愛ください。



指先の2㎏KOKUYOの記憶 んじゃ。

河野潤々


「KOKUYO」というのは、文房具や事務用品のメーカーのコクヨのことだと思った。2㎏の数詞に悩んだが、これはA4コピー用紙500枚の重さに匹敵する。コピー機にコピー用紙を補充したり、プリンタに入れたりした事務作業で荒れた指先を労っているようにも思う。一字空けの後の「んじゃ。」は「それでは」と読んだ。最後に句点をつけたことで、無事に定年退職した感慨を想像したのだった。



カルテには雲の軌跡が記録され

斉尾くにこ


人間、ある程度の年齢になると病院通いは日常のルーティンになってくる。私などは9枚ほどの診察券をもっていて、とっかえひっかえして通院している。マイナンバーカードを受付でカードリーダーに差し込むと過去の診療情報の提供に同意するかどうかの確認がある。最初の頃、その情報提供に抵抗があった。病歴などはプライバシーの最たるものでそれを曝け出されるようだったからだ。でも掲句は軽やかに「雲の軌跡が記録され」としている。そこには優しさと慈しみの視点がある。過去のあらゆるできごとを受け入れているのだ。「雲の軌跡」に柔軟な生き方を学んだ。



救われます白いポストに白い蜘蛛

鈴木雀


「白いポストに白い蜘蛛」のフレーズが印象的な一句。「白い蜘蛛」は縁起がいいらしい。そもそも蜘蛛自体は、害虫を食べてくれる益虫が多いそうだ。もちろん怖い蜘蛛もあるが。まっさらな気持ちを表すような白いポストには、白い蜘蛛がいい知らせを届けてくれるに違いない。「救われます」には今までの辛さなどが凝縮されているようで、それが少しでも軽減されるような明るさが見えるのが嬉しい。



酔ってるね「ぽやしみ」なんて言うなんて

須藤しんのすけ


「ぽやしみ」、ネットで調べたら「おやすみ」のネットスラングらしい。「おやすみ」の入力ミスやオタク構文の文体から生まれたという説がある。どちらにしても、これが「おやすみ」とは想像もつかなかった。「ぽやしみ」、いかにも寝ぼけ眼で打った感じがあって、面白いと思った。時代によって、生まれたり消えたりしていく言葉がある。果たして「ぽやしみ」は定着するのか興味深い。そこで掲句、若い人ならともかく、一般的に「ぽやしみ」を使うかな。これ、本当に酔っているのか疑わしいところ。ちなみ「ぽきた」は「起きた」だそうだ。



l know、l know 衰退国家nonstop

旅男


直訳すると、「私は知っている、私は知っている 衰退国家は止まらない」という事か。心もとないので、アメリカの人と結婚した友だちに聞いたら、「l know、l know」と二回繰り返すのは相槌や同意を表すと言っていた。「わかる、わかる」とか「そうだ、そうだ」の意味があるそうだ。「nonstop」は「止められない」とも訳す。英語と日本語の組み合わせの川柳はちょっと見たことがなかったが、句意は現政権への批判ともとれる。もちろん、批判精神は大切だ。私は、掲句によって「Ask what you can do for your country(あなたたちが自分の国のために何ができるのかを尋ねよ)」というケネディ大統領の言葉を思い出した。言葉って難しい…



ごほうびは海の形でやってきた

西山奈津実


一読、青々とした海が目の前にパアッと広がった。どんなことがあってのごほうびだろう。仕事や勉強やスポーツ、あるいは闘病など…ものすごく頑張ったんだね。1996年のアトランタ五輪女子マラソンで銅メダルを獲得した際に「自分で自分をほめたい」と語った有森裕子さんを思い出した。海の形のごほうびという発想に、ただただ驚嘆、感嘆した。



きみの指紋、夜明けの月みたいだね

羽風ふみ


掲句に、有明の月をイメージした。後朝の別れや百人一首の「ほととぎす鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」を思い出す。指紋は人それぞれに皆違うと言われている。その指紋が残されているのはどんな場所なのだろう。今にも消え入りそうな夜明けの月に重ねる「きみの指紋」にはどこかやるせないものがある。時代は令和に代わっても、恋愛事情は太古の昔よりさほど変わらないのではないかと思っている。

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