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会員作品を読む

​笹田かなえ

2026年5月

2026年5月1日


夏始めマインドコントロールON

旅男


今年の夏から、最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」と呼ぶことに決定した。1582年に織田信長によって焼き討ちされた恵林寺にいた快川紹喜という禅師は「心頭滅却すれば火もまた涼し」という言葉を発して焼死したそうだ。これもまた大いなるマインドコントロールだ。掲句、酷暑日が続く予感の真夏に備えて、初夏から心構えをしておこうということなのかな。



半日だけ花束になってもいい?

温水ふみ


一読、胸がきゅんとした。「半日だけ」という時間の制限のなんといじらしいこと。「花束」という言葉は純粋な「今」の気持ちそのものだ。具体的に、愛や恋の文字は無くても、恋愛中の女性の華やぐ気持ちそのものを共有できる。「花束になってもいい?」の呼びかけは信頼できる相手だからこそ言える言葉。この「半日だけ」は、「ローマの休日」のアン王女の過ごした時間のように、かけがえのない時間になったと思う。



貼って剥がせるシールのような苺パフェ

飛和


なんてキュートな川柳だろう。「苺パフェ」に「貼って剥がせるシール」は赤や白やピンクなど色あいで、今流行のぷくっと立体感のある可愛いシールが思い浮かぶ。こんもりの苺とアイスクリームと生クリームの苺パフェは永遠に憧れのスィーツのひとつ。そこに重ね見たシールもまた幼心をくすぐるアイテム。苺パフェを前にした時の「幸せ気分」を読者もまたも味わったのだった。



大切なことはワルツでできている

藤田めぐみ


ワルツというと「子犬のワルツ」や「美しく青きドナウ」などの一般的な曲しか思い浮かばないが、耳になじみやすい曲調という認識がある。掲句を読んでいたら、あまり難しく考えないでシンプルに、生きやすいように生きるという生き方もあることを、改めて思った。人間が生きていく上に必要な「衣食住」。それはまさに、3拍子でできているワルツにあてはまる。でもそこに気が付くには、なかなかの紆余曲折を経ることになるのだが…



純白は飽きた三月の野うさぎ

峯島妙


「純白」という、正義の象徴のような色に「飽きた」という野うさぎ。野生のうさぎは、一年中活動するので外敵から守るため、冬は白、夏は焦茶色になる。「三月のうさぎ」に「不思議の国のアリス」の「三月ウサギ」を連想した。「三月ウサギ」のキャラクターは「三月のウサギのように気が狂っている」という英語の成句からきているそうだ。木の芽時とも呼ばれる三月に、毛色の変わる野うさぎと不安定な心持になる人間。掲句に散りばめられた言葉の背景を楽しんだ。



パンドラの箱に油田がありました

伊藤良彦


「パンドラの箱」に「油田」という見つけにハッとした。また起こるであろうと危ぶまれていた「油田」がらみの争いに、再び世界は混迷を深めている。ギリシャ神話に出てくる「パンドラの箱」。箱の中には「疫病、犯罪、悲しみなどなど、ありとあらゆる災い」が入っていて、開けてはいけないものだったのだ。そんな災いが出尽くした後に残っていたのが「希望」。果たして、現代のパンドラの箱には「希望」は残っているのだろうか。



気まぐれな雨が君なんだと思う

菊池京


ぼんやりと窓の外をみていたら、不意の雨。ガラス窓を次々に打つ雨粒を見ていたら、折々の「君」の言葉が思い浮かぶ。「今日はもう帰ったら」と言ったと思ったら、「やっぱり、もっと一緒にいよう」とか「海が見たい」と車を走らせていたら、急に「競馬にいきたくなったから」と方角を変えてみたり。そんな「君」の子供っぽいようなところ、嫌いじゃないけれど「気まぐれの雨」みたいだと納得するまで時間がかかったんだよね。



幅員に見合う毛穴が続かない

河野潤々


「幅員」とは、「比較的大きなものの横幅」のことを示す言葉だという。この「横幅」にまず思い浮かぶのは、私の場合はおなか回りのサイズ。悲しいことに、年々増していくこの幅員になすすべもないのだ。掲句の嘆きはそれだけなく「毛穴」も問題のようだ。人間の毛穴の数は、お母さんのお腹の中にいる時から決まっているそうだ。幅員が増えることによって毛穴が広がっていく様を想像したらホラー映画のようにも思えてきた。



モーニングフライト白鳥北帰行

斉尾くにこ


早朝の空に、列を成して飛んで行く白鳥を描いた作品に深い感動を覚えた。「コウコウ」という鳴き声も聞こえてきそうだ。白鳥が来ると冬が始まり、白鳥が帰ると冬の終わりを思う。毎年繰り返される自然の営みだが、毎年季節をたがわずに遠いシベリアから来ては帰る白鳥を見るたびに「今年もありがとう」と言いたくなる。カタカナと漢字だけで構成された掲句は、大いなる慈しみにあふれている。



新しい家はあかるい白髪葱

鈴木雀


引っ越しかな?新築のお家かな?「あかるい白髪葱」が唐突でありながらも説得力のある具象に立ち止まった。葱を細く切りそろえ、水にさらして作る白髪葱は、サクサクとした食感と葱特有の辛みのうすれた味わいで、刻み葱より特別感がある。「新しい家」で始まる新しい生活にキュッと気持ちを引き締めながらも、「あかるい白髪葱」に元気をもらっているように感じた。何気ない日常が瑞々しく立ちあがっている。



名前さえ知らない春の写真集

須藤しんのすけ


漠然とした書き方でありながら、読者の心にはそれぞれの春が浮かんでくる。それは「名前さえ知らない」としながら「春の写真集」であるところの絶妙な言葉選びによるものだ。実際の写真集でも思い出の春の一ページでもいい。掲句によって春を象徴する場面が鮮やかに切り取られ、目の前に現れる。特に「名前さえ」の「さえ」と強調していることが、全体を引き締めながら空気感を鮮明なものにしていると思った。

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