せんりゅう、ごちそうさま
笹田かなえ
2025年9月1日
水脈 第70号(終刊号)

「水脈」の編集発行人の浪越靖政さんは、いつお会いしても温かく優しい笑みで接してくださいます。川柳愛が大きくて、どうすれば川柳にとっていいのかをいつも考えていらっしゃる方だと思っています。その川柳愛の結晶とも言える「水脈」が終刊というのは、とても寂しい限りです。
「水脈」の69号と70号に「水脈」の来し方が書かれています。省略してご紹介させていただきます。
「水脈」は、北海道の川柳家である飯尾麻佐子さんの編集発行であった「魚」にルーツを持つそうです。
「魚」は1978年11月創刊の季刊誌で、女性のみの参加でした。
実は私も遠い昔に飯尾さんから、参加のお誘いのお電話を頂いたことがありました。川柳を初めて間もないころの事です。残念ながら参加はできませんでしたが、飯尾さんの威厳のあるお声をまだ覚えています。
「魚」は1995年に終刊となりました。でも翌年に「あんぐる」を創刊して精力的に活動されていましたが、2002年2月に飯尾さんの体調不良で終刊となりました。
「水脈」は2002年8月に発刊されました。第1号は15人のメンバーでの出発だったそうです。
年三回の刊行で、その発行後に合評会を開催されているというのも画期的です。𠮷田健治、久美子ご夫妻も毎年のように参加されていたようで、第37回合評会に参加されたお写真の掲載に懐かしさを覚えました。
70号の同人の作品から、私の心に残った作品を紹介させてください。
たそがれ濃紺オンコリンカスありき
佐々木久枝
三角も四角も雨に濡れている
澤野優美子
千年も経てばまたぞろ詩を書きに
一戸涼子
太陽が積もって夏は生まれるの
西山奈津実
煮込みすぎでしょ十年目のフンギリ
四ツ屋いずみ
背筋シャキッと白いドレスが手放せず
酒井麗水
暮れなずむ定礎はひとつ咳をする
河野潤々
一途さは死ぬために飛ぶ雪虫よ
平井詔子
あらすじを忘れて次、とまります
宇佐美愼一
れんじがチン! はーいと返事する
坪井政由
海に氷がひとつ鯨が泣いた
きりん
まだかまだかとジプシーのタンバリン
落合魯忠
君の夢見るときだけのフルカラー
浪越靖政
「水脈」は同人作品のほかにも「創連(そうれん)」と「川原(せんげん)」そして「いちご摘み川柳」と言う発想を広げるための試みとして、「 四行連詩作法」をアレンジしたものを掲載しています。それぞれのルールに則り、繰り広げられる言葉の連なりは、連句とは違った味わいがあり面白く読ませてもらっていました。読みにも力を入れていて、同人作品を全国各地の川柳人から作品評を書いてもらっているのは、とても読み応えがありました。
同人が同人の作品を読む、「作品鑑賞」のページや「イメージ吟」のとても充実していました。そして思うのは、これだけの柳誌にするためのご苦労です。原稿のまとめや編集、柳誌の発送などにどれほどの労力を費やされていたかと思うと、感謝と尊敬の念しかありません。
浪越靖政さん、一戸涼子さん、そして「水脈」の発行に携わってきた方々、本当にありがとうございました。
「水脈」は確かに終刊となりますが、その支流は無限の可能性を持ってあらゆる場所へと流れていくことでしょう。
「水脈」70号は、エネルギッシュでかみしめるほどに北海道の味わい豊かなトンデンファームのウインナーソーセージの味がしました。
せんりゅう、ごちそうさまでした。



